VOL.03
あめやが大切にしたいこと
[山梨]もも
ももの里、山梨を訪ねて色も形もこれほどかわいい果実はない。
今回訪問させていただいた桃の生産者はピーチ専科ヤマシタさん。迎えてくださったのは農園主の山下一公さん59歳。
先代のお父様から25歳で農園を引き継ぎ、30年以上おいしい桃作りに専念されています。
くだもの王国の山梨県は富士山をはじめ、南アルプス、八ヶ岳など標高2000mを越す雄大な山々に囲まれています。甲府盆地の山あいを縁取るロケーション。果樹栽培に最も適した理想的な扇状地を形成。江戸時代には甲州八珍果とい言葉があった様に、昔から果物の生産が盛んだった果実栽培の適地だったようです。
中でも山梨市・笛吹市をはじめとした周辺地域は桃の生産量日本一、国内生産量の1/3が山梨県産です。
到着するなり「じゃ、畑に行こうか!」と言われて軽トラに揺られながら細くキツイ上り坂を、くねくねと10ほど走ると山下さんの畑に到着。町を見下ろす南斜面、日本一の富士山を望む絶景地にあり、本当に絶景!
一面に拡がる桃畑は日本一日照時間が長く、太陽の光をたっぷり浴びながら、たわわに実を付けた桃がいっぱいです。
- くだもの王国、山梨は果物に適した理想的な扇状地
- ピーチ専科ヤマシタの山下一公さん
自然に逆らわない適地適作主義
甲府盆地は山から流れてくる恵みを蓄積し、肥沃な土壌を形成し、さらに寒暖の差もあり、豊富な日光を桃の木に与え、高品質な農作物の育成に貢献、まさに果樹栽培の適地なのです。
気候や風土に合った作物を育てる栽培場所選びは最も重要な事です。
別の場所で作物を育てようと思えば育てることはできますが、品質や味の良いものはできません。
無理に環境に合わせようとすると病害虫も発生して、結果的に農薬や化学肥料が必要となります。
自然や気候が相手なので農作物は無理して作っても人間の力は及びません。
ひと昔前、草が生えた畑というのは堕農の証・・・という時代もありました。
山下さんの桃畑を見回すと、思いのほか草が生えていることに気が付きます。
「草生栽培」と呼ばれるこの方法、実はいろいろなメリットがあります。
畑に生えた雑草を刈り取って、土に還して分解させることで有機肥料になります。
また土が草に覆われる事によって、土の温度を抑える効果もあります。
甲府盆地の夏は蒸し暑く、桃の枝も幹も熱がこもりがち。けど、草が生えてることで土の温度上昇を抑える事が桃の樹の為にも結果的に良いのです。
また傾斜地に広がる畑ゆえ、雨などで土を流れる事を防ぐ事ができます。
草を生やす事で、雑草が畑の土を守ってくれます。何度も草刈りをするから手間はかかります。
もちろん草が生えすぎていると、桃にも悪影響を及ぼします。要はそのバランスが大切。
草生栽培は良い農法だと解っている農家さんは多いけど、手間が掛り過ぎてなかなか難しい農法なのです。
作物にとって心地よい環境が、一番大切。自然の力を味方に付けて、桃本来のおいしさを最大限に引き出した「こだわり農法」で山下さんの桃は育てられています。
美味しい桃までの道のり
桃栗3年、柿8年、と言われますが、桃の実がなるまでに最低5年はかかるそうです。
そして美味しい桃が実をつけるまでには、さらに数年が必要なんだとか。果樹栽培には長い道のりが必要になります。
毎年3月頃、桃畑の枝から堅い蕾が出てきます。その堅い蕾を摘む「摘蕾」という作業から、桃つくりの1年は始まります。ひとつの枝にいくつも蕾があっても養分の取り合いになるだけ、結果的に実も大きくなりません。味がよく、形の良い高品質の桃になるよう、蕾に十分な栄養を行き渡らせる作業です。実が成らない枝の先や根元などにある蕾を摘み、地面側にある蕾だけを残します。春とはいってもまだ肌寒く手がかじかむ気温。朝早くから摘蕾の作業に追われます。
蕾から小さな桃になると、さらに実の良し悪しを見極めて「摘果」という作業をします。
摘果を数回繰り返すと養分がさらに行き渡り、桃の実は段々大きくなってきます。このぐらいの大きさになると、縦に伸びる縫合線と呼ばれるラインが見えてきて、ようやく桃らしい姿になってきます。
ある程度実が大きくなると、病害虫や日焼けから実を守るために「袋がけ」という作業に入ります。
袋をかけることにより、さらに農薬の散布回数を減らすことができます。2枚の袋が重なった2重袋と呼ばれ、内側に袋を止める針金が入っています。袋のV字型の切れ目から桃の実を挟み込むようにしてひとつひとつ袋がけします。とても根気のいる作業です。
袋がけから約1ヶ月経つと、袋の中の実が大きくなり、袋がピンと張ります。袋越しに見える実の色がグリーンから黄色になると袋を外す合図です。この作業を「除袋」といいます。2重袋の場合、外側の袋を下から軽く引っ張ると、白い内袋のみ残ります。
除袋を終えるといよいよ最後の作業を行います。反射シートを畑に敷き、太陽の光を反射させて地面からも桃の実に陽射しが当たるようにします。こうすることで日光が当たった実は黄色から赤く色が変化していきます。ひとつの同じ樹でも東西南北の方向によって色付きが変わり、美味しさが変わるそうです。
また桃が実るまでに雨が少なすぎると小玉傾向になり、雨が多すぎると玉は張るけど大味になってしまう。適度の雨と適度の日照りが必要となります。特に桃は天候に左右されやすく、栽培の難しい果物です。日々の天気がとても気になるのも頷けます。
除袋作業から約1週間ついに収穫、タイミングの見極めが大切です。形や大きさだけでなく、桃が全体的に赤色に色付いたら収穫の合図です。
このように1つの桃ができるまでにいくつもの作業があり、たくさんの手間がかかっています。
丹精込めて、品質や味を守りながらつくっています。
まるでクリエイター
お客様から「山下さんの桃、とてもおいしかった」と言って頂くと、とても嬉しく「今までの苦労も、どこかに吹き飛んじゃうよ!」と笑いながら言う山下さんは、どこか誇らしげ。
収穫後に行う剪定作業、2〜3年後にどのように桃が実るのか?そんなことを考えながら枝を切るのだそうです。お話を伺う限り、想像しながらの剪定作業はまるでクリエイターのような仕事なのだと感じました。
安全でおいしい桃を目指してこだわり続け、先代のお父様と親子2代の経験と知恵を生かして、栽培方法や肥料などを研究した土づくりも山下さんのこだわり。
「ボカシ」と呼ばれる米ぬかをベースに、菜種かすなど、有機物から作った肥料があります。
効果を穏やかにぼかしながら効く肥料はカルシウム補給やPh調整にも化学肥料ではなく牡蠣ガラを使用。
牡蠣ガラは分解するまでに何年も掛るので、ゆっくりゆっくり、じわじわと効いていく。
化学肥料の窒素成分を入れると、葉の色は濃くなるし、桃の樹はグングン伸びるのでとても元気。でも、雨が降ると、肥料が直接的に効きだすから、どんどんと実が大きくなるだけでまるで美味しくない桃になってしまいます。
春先、地温が上がってくると土壌微生物が動き出して肥料を分解して樹にじわじわと効いてきます。
そうやって美味しさを徐々に蓄えた山下さんの桃、積み重ねた手間暇かけた作業が濃厚な味わいを作り上げるんだと改めて納得しました。
桃との会話
収穫期の見極めも、生産者の知識と経験が重要なポイント。
収穫前、樹になっている桃の表面にはチクチクとした産毛が生えています。この産毛が寝て、表面がつるつるになると収穫期の合図。
満遍なく色付いている事はもちろん、果実を触ったときの感覚で収穫時期を判断し、熟度を見極める職人芸。
本当においしい桃は、収穫間際に表面が光るそうです。
完熟した桃は陽射しを浴びて輝き「今が収穫の時期だよ!と桃が語り掛けてくるよ」と山下さんは笑いながら話してくれました。
技術力が高く、プロ生産者だからこそ、桃の声が聞こえるようになり高品質の桃が栽培できるのでしょうね。
- 桃が収穫時期を語りかける
- あめやのもものあめ「太陽のウインク」を食べていただく
Amaya Eitaroの商品と一緒に記念写真。
実はとても楽しみにしたのは、山下さんの桃のカフェ。しかし、なんと今日は定休日。こういう日でない限りゆっくりとお話などできないので当然のことでしたが、とても残念。多くの人がこの桃を目指して押しかけてくるそうです。桃ジェラートがたべたかった。。
山下さんの桃でつくった板あめとスイートリップと果汁あめと一緒に。
- 2019年7月
- あめや商品開発室
- 撮影
- 越田悟全 山梨県北杜市在住